「ヘンリエッタ」 「いばら姫?」 戸を叩く音とともに名を呼ばれ、ヘンリエッタは慌てて戸を開けて迎える。ほんの少しだけ不機嫌な顔をしたいばら姫は苛々と腰に手を当てた。 「…あのですわね」 意を決した様子で口を開き― 「引き裂かれた二人を再び巡り合わせるために… とう!『さすらいの魔女ッ子ーズ』ラプンツェル登場☆」 「「ラプンツェル!?」」 「窓から格好よく登場!って一度やってみたかったのよね〜。中々ヘンリエッタがよそを向いてくれないから、困ってたけれど… ナイスアシストだわ、いばら姫!!」 金の髪を翻し窓から華麗に現われ、右手の親指と人差し指をピンと立て左手には箒。腕を体の前で交差させビシリと決める。そんな彼女の個性に理解を示しながらも、それが完全ではない二人はしばし呆然とした。 「…ラプンツェル、あなた一体何をしに来ましたの?」 「あら、いばら姫とおんなじよ?いくらお父さんだからって、愛する二人を引き離すなんて許せないもの!」 「…いばら姫、ラプンツェル」 ヘンリエッタの大きな瞳が丸くなり、うるうると潤みだす。 「わ、わたくしは別に…ただ遊び呆けているからこんなことになる、ということを説教しに来ただけですわ!…ただどうせお馬鹿さんに説教するなら、一人より二人一遍の方が効率的だとは思いましたけど」 なんだかんだと厳しいことを言いながらも、結局は甘いいばら姫は腕を組んでツンと顎を上げた。照れ隠しなのはその赤い頬を見れば一目瞭然だ。ラプンツェルが密かにツンデレキタと握り拳でこっそり、だが力強く呟いた。 「二人ともありがとう!」 ヘンリエッタが感極まってぎゅっと抱きつくと、いばら姫は少し怒ったように、ラプンツェルはとても嬉しそうに抱擁を返す。こうしていると三人はまるで姉妹のようだ。 「…それと、ごめんなさい」 こうなってしまったのは、そもそも自分たちのせいだ。その上二人の親友と過ごす時間は目に見えて減っていたのに―。 それでもこうして助けてくれる二人の優しさが嬉しくて、同時に申し訳なくて涙が溢れる。 「別にわたくしはあなたの泣き顔が見たくて来たんじゃありませんの。顔をお上げなさい」 俯いた頬に手を添えて、取りだしたハンカチで涙の跡を拭いてやる。ヘンリエッタが少し赤くなった目元で見せた笑顔に満足そうに頷いて三人は離れた。 「という訳で…シュテルン・コメート!!」 「成程。魔女の箒で飛んで行きますのね」 ラプンツェルがジャジャーン!と自分で効果音を口にしながら掲げた、柄から穂先まで全身真っ赤な箒を見て、ヘンリエッタは思わず身構えた。箒の色形は関係ないがラプンツェルと箒という組合せに、過去の恐怖体験が走馬灯のようにまざまざと甦る。 「ラ、ラプンツェル…大丈夫、なの?」 「大丈夫!この日のためにそこでの一日が一年に相当する部屋で修業を積んだからバッチリよ!今なら三人乗りだって問題ないわ!!」 一体どこでどのような修業をしたのかはサッパリだが、その美しくも力強い笑顔を信じ、ラプンツェル、ヘンリエッタ、いばら姫の順に箒に跨る。ラプンツェルが厳かに呪文を唱えるとふわりと浮かび上がり、窓から大空へと飛び出す。 眼下に星々の川―もはや大海といってもいいだろう―が広がった。 これから会える。一年の間会うことの許されなかった相手を思い、胸がいっぱいになる。期待と不安に押し潰されそうになってラプンツェルにぎゅっと縋りついた。ヘンリエッタの機微を感じ取ったいばら姫が勇気づけるように声をかける。 「…大丈夫ですわ。甲斐性なしの、あなたの王子様はわたくしがしっかり再教育を施して差し上げますから」 「い、いばら姫?」 「だから大船に乗ったつもりでいなさい」 凛々しく言うその大船は、必要以上に立派で不要なほど物騒な気がして、背中にヒヤリと冷たい汗が伝う。不穏な気配に思わず振り返ろうとするが、急に景色が倍以上のスピードで流れて行く。 「そうよ、ヘンリエッタ!私も修行の成果で…」 そこで一旦溜めて、勿体ぶるように間を開ける。 「三人乗りと、今までの三倍のスピードで飛べるようになったんだから!」 「ラプンツェル!?ストップは!?止められるようになったんじゃないの!?」 「え、違うわ?ほらよく見て、この箒赤いでしょ?だから三倍なの!!」 「全っ然、大丈夫じゃないし、全く意味が分からないんだけど〜!!!」 広くキラキラと輝く星の世界に、悲痛な叫びが響き渡る。いばら姫は教育方針を考えるのに夢中で、前のやり取りも明らかに出過ぎなスピードにも気付いていない。 三人の少女を乗せた箒星は美しい軌跡を描いて夜空を流れて行った。 離れ離れになり、早一年。 片時も恋人のことを忘れることのなかった少女だが、今この瞬間、その存在は綺麗サッパリ頭から飛んでいた。 「…という訳で赤い色には能力を三倍にするというすっごい力があるのよ!」 「…はぁ」 「まぁ、そうだったんですの。ではわたくしのムチもこれから力が増しますのね」 「赤く塗るの?」 「いいえ、ただこれからあるろくでなしの血で染まる予定ですわ」 「ええ!?ちょ、ちょっと待って!」 「大丈夫よ、ヘンリエッタ」 「ラプンツェル、止めてく」 「いざとなれば回復魔法があるわ。多少の無茶も心配ご無用『さすらい魔女ッ子ーズ』ラプンツェル☆よ」 いばら姫は「惹かれ者の小唄」のときとあまり言っていることが変わっていない気が… ラプンツェルの発言には2つネタを入れておきました。 牽牛は誰か分かりませんが、とりあえずご愁傷様。いばら姫の言葉から察するにいばらの王子ではないと思います。 back |